前回のProduct Market Fitに続き、アンダーアーマーのブランディングの話です。デザイナーらしくマークについてから始めてもいいのですが、あえて、マークのデザインの話はナシでいこうと思います。
なぜなら、マークをつくるのは本来ビジョンや思想があって、初めてできることだからです。そのビジョンや思想をどのように戦略に結びつけているのかわかれば、あとはカタチに落とし込む優秀なデザイナーを雇えばいいだけですからね。
phase4:ブランドを表す言葉とブランドストーリーを関連付けるブランドコミュニケーション戦略を実施
『Under Armour』を他社との差別化ができるブランドをつくりあげるために、ケビン・ブランクのビジョンや思想を伝える言葉を発見し、共感できるストーリーをつくりブランディングを仕掛ける。
1999年12月公開映画「エニイ・ギブン・サンデー」の重要なシーンに採用され、数々の映画やTVドラマの中でも登場し、2000年のシドニーオリンピックで金メダルをとった米国代表の野球選手がコンプレッションショーツを着用して金メダルを獲得し、日本でもプロ野球選手が求めるようになる。
じつは日本で発売された当初、野球選手はシルエットが恥ずかしいという理由で、あまり評判がよくなかったが、米国野球選手がその先進的なウエアを着こなす姿を見て、ぴったりとしたシルエットに対する抵抗感が一気に吹き飛んだ。
2000年以降、コンプレッションショーツの口コミは日に日に広がりブランドは大きくなっていく。このころから本格的にブランディング戦略を始めだす。
■ブランドコンセプト
「強い意志があれば必ず強くなる。自らの強い意志こそが成功の秘訣だ」
■2002年「PROTECT THIS HOUSE」(この場所は絶対に譲れない)を正式なブランドボイスとして発表。
■2003年に同ブランドの将来を決めたTV広告「PROTECT THIS HOUSE」が評判を呼び、2005年には起業10年足らずで売上高2億8,100万ドルを達成。
自分たち企業を、どのようにわかってもらうのか、どのように伝えるのかをデザインしなければ、企業と顧客の心の繋がり(コンテクスト)がつくれない。単に金儲けの企業と思われてはいけない。
怖いのはプロアスリートから、そのファンなどの一般消費者へ伝わる過程で、するりと思想が抜け落ち、形や機能だけが独り歩きしてしまい、どこにでもある企業になってしまうことだった。
つまり機能をまねされてしまえば他社との違いがなくなり、単なる日常品になってしまう。実際ナイキやアディダスなどの大企業の他にも多数のメーカーが、2004年コンプレッション肌着マーケットに参入してくる。
こころのポジショニングを発見し、つかんだ!
スポーツウェアポジショニングには巨人たちがひしめいている。しかし、心のポジショニングだったらいくらでも取り返すことができると考えた。
たとへば、ガリバー企業は憧れのスターが広告塔になり、製品のブランドをつくりあげるのが常だったが、アンダーアーマーは「雑草魂」という心のポジショニングをつかい、普通の人に共感できるストーリーを展開し、「天才」に対するあこがれをぶち壊した。
The Underdog Spirit:雑草魂
アンダードッグスピリット
「特段優れていないが、努力でのし上がる」
普通の人間が努力で成り上がる。
ほとんどの競技者はプロとはいえども天才ではない。その競技者を応援しサポートするウエアーという、心のポジションをつくりあげ、そのビジョンを表すことばを発見した。
雑草魂を、運びやすい言葉に翻訳したメッセージを次々とつくりだす。
“I will” おれはやる! 私はやる!
それは、自分との約束、決意。
やりたい、なりたい、できればいい、ではない。
絶対やり遂げる、何が何でも達成してやる。
そんな自らの揺るぎない意志こそが、
アスリートを強くする。
俺は、やる。私は、やる。I WILL.
I Will What I Want
競技者を応援する言葉、自らを鼓舞する言葉をつくり、心のポジションを広げ続けた。
2003年に導入されたレディス部門は現在、同社売上の3分の1を占めるが、当初は女性らしく、ピンクやソフトなデザインを提供していた。しかし、同社製品のような高機能性を求める女性が必ずしもスポーツウェアに女性らしさを求めている訳ではないことに気がついた。
そこで女性版のアンダードッグスピリットを表現するために、アメリカン・バレエ・シアターで2番目にソリストとなったアフリカ系アメリカ人バレリーナ、ミスティ・コープランドを広告に採用。留まることのない心身の鍛錬の上に咲く女性の美、というメッセージをストレートに伝えた。
このように、アンダーアーマーは広告塔にトップアスリート、スターアスリートを採用せずに、努力でのし上がる2番め3番目のアスリートを使い、応援したために、マーケティングのための投資は、ナイキのおよそ12分の1ですんだ。
スポーツへの情熱、その精神を全面的に押し出すことで、消費者の熱い共感を得るモノづくりとマーケティングを構築していった。
■2005年にはNY株式市場に上場
ストーリーを語ってくれる仕組
「高いビジョンを持つイノベーティブな会社」という認識を広めるために、メディアやマーケッターが自然とアンダーアーマーのストーリーを語ってくれるよう仕向ける仕組みを構築する。
予算の少ないアンダーアーマーは、ナイキやアディダスに対抗するためにWebを、より積極的に利用している。その一つが「フューチャーショー」と呼ばれるイノベーションチャレンジである。アンダーアーマーに商品化して欲しい商品やサービスに対する提案を広く募るもので、一般の発明家や大学の研究者、アスリートから多くの提案が寄せられた。
このフューチャーショーは「ショー」というだけに、みせるために設計されている。
コンペ形式でプレゼンテーションが行われ、アンダーアーマーのトップマネジメントと提案者のやり取りがみれ、優秀な提案には賞金だけでなくアンダーアーマーとの共同研究が用意されている。
この取り込みが受けUSAトゥデイやブルームバーグといったメディアに大きく取り上げられた。
SNSを活用したコミュニティ戦略は、Twitter、FaceBookのライバル2社と比較して5倍から10倍の開きがあるが、ウェブのトラフィックはアディダスとはほぼ互角である事からネットでのプロモシーションはかなり高いパフォーマンスを実現させている。
まとめ
スポーツへの情熱、その精神を全面的に押し出すことで、消費者の熱い共感を得るモノづくりとマーケティングを構築した。
スポーツ市場は、アンダーアーマーが表舞台に立つ前には、ガリバー企業がブランドをイメージする有名人(広告塔)をつかい、「天才」に対するあこがれをあおり、その服を着たいと思わせる戦力を使っていたが、アンダーアーマーは「雑草魂」という心のポジショニングをつかい、普通の人に共感できるストーリーを展開し、「天才」に対するあこがれをぶち壊した。
ブランドをつくろうとする、企業の多くが消費者から見て、「知らなければ存在しないのと同じ」とまず会社や商品の認知から始めようとする。つまり宣伝・PR作業から始めようとする。
しかしケビン・ブランク氏は、消費者にとって価値があり、違いがあるアイデアの商品を届けることが一番大事だと信じた結果(お金もなかった)、その喜びから生まれる口コミによってイノベーターからアーリーアダプターをつくりだした。そのベースとなったのは揺るぎない理念だった。