ぼくが福岡でフリーライターをやっているわけ

“不愉快”な原稿

ライター17

 書き出しの問題は、その後もぼくを悩ませることになるのだが、心に残っている情景を積木のように組み合わせたり、また、バラバラにしたりしながら、ぼくは何とか特集の記事を書き上げた。これも経験を重ねるうちにわかってきたことだが、紀行文のような文章は、不思議と最初のセンテンスの座りがよくなると、そのあとは結構すらすらと書ける。思ったよりも早い時間でとりあえず“完成”を見ることとなった。プリントアウトした原稿を何度か読み直し、部分的な修正を加え、ワタナベさんに見てもらうことにした。


 自分が書いた文章を誰かにチェックしてもらうのは、いまでもあまりいい気分はしない。なんだかテストを受けて、採点結果を待っている小学生にでもなったような感じがする。ワタナベさんはデスクで原稿に目を通していたが、やがてぼくのところにやってきてこう言った。「うーん、不愉快だなあ」「そう、ですか…」。ぼくは正直なところがっかりした。“そうか、不愉快なんだ、この原稿。結構、がんばって書いたんだけどな”などと、瞬間的に考えた。けれどもワタナベさんは意外なことを口走った。「いやね、いっぱい赤を入れてやろうと思っていたんだけど、あまり直すところがなくってね」「えっ、本当ですか?」「本当だよ、まあ、細かいところは別として、ちゃんと“文章”にはなってる。この調子なら、ぼくがいなくなっても、特集は任せられると思うよ。カワハラさん、ちょっときて」と、ワタナベさんはカワハラさんを呼んで、彼女に原稿を渡した。「丸山くんが書いてくれた原稿なんだけど、ちょっと冒頭が長いから、最初の部分をリードにしようと思う。そう、ここまでね」「そのほかはそんなに修正するところはないんですね」とその指示を聞きながら、カワハラさんは言った。「そうなんだよ、本当、不愉快だよね」と言って彼は笑った。


 思えばワタナベさんを“不愉快”にさせたことが、ぼくがライターを生業にしていく出発点になったと思う。なぜなら、ささやかとはいえ仕事を任されて、それがある程度評価されたのだから。残念なことに、ぼくが書いた特集が載っている機関誌は、何度か引越しを重ねる間に、どこかにいってしまった。スポンサーのチェーンストアも、あっけなくつぶれてしまったから、もう目にすることはないだろう。もちろん、いま読み返せば、いろいろと不行届なところがあるのだと思う。それでも“不愉快”だと言って、ぼくのモチベーションを上げてくれたワタナベさんにはいまも感謝している。いい写真を撮ってくれたハマちゃん、そして素敵なレイアウトをしてくれたカワハラさんにも。


 ぼくは原稿を書き終えた解放感から親不孝通をめざした。目的地は、その一角にあるライブハウス『キャバーンクラブ』。ビートルズのコピーバンドが出演する店だ。幸い一万円札が財布の中にあったから、アーリータイムズをキープして、フライドポテトを注文した。こういう言い方もおかしいけれど、本物よりも上手な演奏を聴きながら、ぼくは毎月特集を書き終えたら、この店に来ようと思った。それくらいの楽しみがあってもいいではないかと。

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