体質のせいだと思うのだが、ぼくはよく二日酔いになる。それも酒を飲んだ翌日が取材であるとか、打ち合わせであるとか、そういう大事な用件があるときに限って、肝臓が思うように機能してくれない。何年か前にも、ある講演会の記事を書く仕事を請けたのだが、受付の人からクライアントに「取材に来た人が酷くアルコール臭かった」と“告げ口”されたことがある。実にうまくない話だ。
そして、人生初の特集取材だったこの日も、ぼくは見事に二日酔いだった。路面電車の一日を、始発から追いかけようという発想はよかったと思うのだが、何しろ頭の中はぼんやりとしているし、たぶん焼酎の匂いをまわりにプンプンさせていただろう。幸い電車の車庫で話を聞いた担当者の人が、とても親切で終始笑顔で対応してくれたのには助けられた。ぼくは口下手なたちだから、あらかじめ考えておいた質問項目を、ぎこちなく投げかけることしかできなかったけれど、その一つひとつにていねいに答えてくれた。ただ、いまだに覚えているのは、電車の運転士は安全のため、体調不良だと運転席に立たないという話をしていたときに、「もちろん、二日酔いだったら勤務できないんですよ」とニヤッと笑ってぼくを見たことだ。さすがに苦笑するしかなかったが、なんというか、ある種のウィットを感じさせられた。
ところで人間にはいろいろなタイプがある。この担当者のように、一を聞いたら十じゃないけれど、実に的確な答えを返してくれる人。反対に何を聞いてもとりつく島がないというか、ぼそぼそっと表面的なことしかしゃべってくれない人。あるいはしゃべってくれるのはありがたいけれど、質問に答えるというより、自分のことを延々と語りつづける人など、まあ、文字通り千差万別だ。それでもライターは相手が誰であろうと、文章を書くための情報を相手から引き出さなければならない。これに関しては慣れるまでにかなりの時間がかかる。もしかすると、まともな文体で文章を書けるようになるよりも、その道のりは長くなるのかもしれない。存外、取材が終わって雑談をしているときのほうが、実のある話が出てくることもある。最後の最後まで気を抜くことはできないわけだ。そういうことを含めて、もし、あなたがライターに興味があるのなら“口のききかた”には気をつけたほうがいい。いろいろな意味で。しゃべりすぎるライターも、ぼくはあまり信用しないことにしている。
ハマちゃんの撮影は、あたりが暗くなるまでつづいた。ぼく自身、長崎を訪れたのは初めてで、見るもの聞くものすべてが新鮮だったけれど、さすがに早朝から夕刻まで仕事をしていると、疲労がだんだんとカラダに蓄積されてきた。ぼくは言った。「ハマダさん、まだ撮ります?」「いや、もう終わるっていうか、終わった」「じゃあ、美味しいちゃんぽんでも食べて帰りましょうよ」「いいねえ、それは。昼もちゃんぽん食ったけど、俺、麺好きだから」とハマちゃんは笑った。外灯やネオンで装飾された長崎もなかなか魅力的だった。