連載書き下ろし小説

なお、この星の上に

作:片山恭一

写真:川上信也

プロデュース・ディレクション:東裕治

昭和30年代はじめ、中国山地の山奥で未来のエネルギー資源とされる鉱床が発見される。全国的な注目を浴びて沸き立つ村の人たち、新しい考え方や価値観への戸惑い、変わっていく生活、失われていく伝統的な暮らし。そのなかを生きる健太郎を主人公とする4人の少年たち。彼らを取り巻く大人たち、自然、野生の動物。戦争の傷跡はなお色濃く残っている。死者の国と現世を往還する者たち。古い伝説とアニミズムの面影を残す世界で物語は幕を開ける。もう一つの「失われた時を求めて」。過去のものの無化、存在するものの交替。そのなかで少年たちは何を見出すのか?

エピローグ

最初から読む <

epi-2

 村には民宿なども何軒かできているらしかったが、今夜は武雄の家に泊めてもらうことになっている。部屋も布団もいくらでもあるということなので、夜はゆっくり酒を飲み、そのまま豊と二人で泊まるという段取りだった。
「独り身のくせに大きな家を建ててなあ」豊が武雄の住まいのことを言った。「一人で住むにはもったいない。嫁さんぐらいもらえと、わしも新吾も言いよったのやが、こいつも強情やけんね」
 本人は反論もせずに豊の話を聞いている。健太郎のところからは顔の表情はわからないが、ゆったりとシートに身体を預けている様子からすると、これまでもさんざん言われてきたことなのだろう。
「しかし七十にもなったら、さすがに嫁さんの世話もできん。新吾も心残りやったろう」
「大きな世話じゃと昔から言うとる」当人は面倒くさそうに言った。
「武雄は最近ちょっとした有名人なのよ」豊は話題を変えた。「木工の玩具を作り、あちこちの小学校や幼稚園に寄贈しよるのが評判になってな」
 こんなに饒舌なやつだったろうか、と健太郎は豊にたいして新しい印象をもちながら、
「昔から手先が器用だったからな」と話を合わせた。「えらく凝ったゴム管を作ったこともあった」
「そのわりには当たらんかったがな」と豊が言った。「とにかく今夜は昔話をしながら新吾を偲んでゆっくり飲もう」

 霊園は日当たりのいい山の斜面にあった。最近になって造成されたものらしく、広い駐車場があり、入口に建つ管理棟には法要室や会食室、冷暖房完備の休憩所などが設けられている。ゆるやかに上る遊歩道を歩いていくと、いかにも切り出されたばかりといったたたずまいの墓石が新興住宅地のように並んでいる。
「背中合わせの墓所がないというのが売り物らしい」豊が説明した。「みんな南の方角を向いとるやろう」
 そう言われると、なだらかに連なる山並みを背にして、墓は前方に開けた街を見下ろすようにして建っている。
「なんやら運動会で整列させられとるみたいやの」武雄が興ざめした声で言った。
 新吾の墓はなかなか見つからなかった。霊園は幾つかの区画に分かれており、それぞれが樹木などで仕切られている。
「村の墓はいまどうなっとるんかの」健太郎は土地の言葉でたずねた。
「藪になっとるんやないかな」豊が素っ気なく答えた。「村の者らはみんなこっちの新しい霊園に墓を移しとる。健太郎のとこは、墓はどうしとる」

片山恭一

愛媛県宇和島市生まれ、福岡県福岡市在住。小説家。九州大学農学部農政経済学科卒業。同大学院修士課程を経て、博士課程中退。大学院在学中の1986年、『気配』で文学界新人賞を受賞しデビュー。しかしその後1995年の『きみの知らないところで世界は動く』まで作品が単行本化されない不遇の時期を過ごす。代表作は、故郷の宇和島市を舞台にした『世界の中心で、愛をさけぶ』。2001年に出版、2004年5月には発行部数が国内単行本最多記録の306万部となった。

川上信也

1971年 愛媛県松山市生まれ。福岡および大分県竹田市白丹を拠点とするフリーのフォトグラファー。福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。その後、プロ活動を開始し、様々な雑誌撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かしたポートレート、料理などの撮影を行う。定期的に写真集を出版し、写真展やトークショーも開催。

Copyright © bokuralab Design by Yuji Higashi