連載書き下ろし小説

なお、この星の上に

作:片山恭一

写真:川上信也

プロデュース・ディレクション:東裕治

昭和30年代はじめ、中国山地の山奥で未来のエネルギー資源とされる鉱床が発見される。全国的な注目を浴びて沸き立つ村の人たち、新しい考え方や価値観への戸惑い、変わっていく生活、失われていく伝統的な暮らし。そのなかを生きる健太郎を主人公とする4人の少年たち。彼らを取り巻く大人たち、自然、野生の動物。戦争の傷跡はなお色濃く残っている。死者の国と現世を往還する者たち。古い伝説とアニミズムの面影を残す世界で物語は幕を開ける。もう一つの「失われた時を求めて」。過去のものの無化、存在するものの交替。そのなかで少年たちは何を見出すのか?

第五章

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5-1

 遠足が終わると、三年生は個人面談がはじまる。毎日に数人ずつ、担任と今後の進路のことを話し合う。大まかには進学か就職かという選択になる。コースによって二学期からは一部の授業が分かれ、就職コースの者には実務的な授業も用意されていた。
 健太郎と豊は進学コースを希望している。武雄は猟師になるという本心を伏せて、担任には就職コースと伝えているらしかった。新吾はまだ迷っていた。本人は就職を希望していたが、彼の長兄が進学させたいと思っているらしい。
「勉強はあまり好きやないけんな」と新吾は言った。
「なんで兄ちゃんはおまえをそんなに進学させたいのかの」武雄が不思議そうに言った。
「これからは何をするにも、高校ぐらいは出とらんとだめらしい」
「高校を出とらんでも、鳥や獣を捕るこたあできる」
「他の仕事をするには高校を出とらんと」豊が言った。
「どんな仕事か」
「学校の先生とか、会社の勤め人とか……」
「そんなもんにはならん」武雄は切り捨てるように言った。
「百姓をするにも、あんまり役に立ちそうにないの」新吾が言った。「それなら就職して車の運転でも習うたほうがましじゃ」
「どんな仕事に就くつもりなんか」健太郎がたずねた。
「食品関係の会社かの」思いがけず明快な答えが返ってきた。「わしらがつくった米や野菜や肉が、どんなふうに使われるか知っておれば、自分が農業するときにも役に立つ」
 三人は感心したように新吾を見た。この同級生は将来のことを真剣に考えているらしい。
 もともと新吾は村に残り、兄たちと農業をすることを望んでいた。しかし農家の三男が村に残ることは現実的には難しい。分家といっても限度があるから、いずれは村の外に働きに出なくてはならない。そのことを踏まえて、長兄は新吾に進学を勧めているのだろう。だが本人はあくまで就職を一時的なものと考えているらしかった。いつか機会を見つけて、兄たちとともに農業をしたいと思っているのだ。
「偉いの、新吾は」健太郎は素直な感想を口にした。
「なんが偉いもんか」彼は謙遜するでもなく言った。「勉強が嫌いなだけよ」
「わしも勉強は卒業じゃ」武雄がさばさばした口調で言った。「国語も算数も、これだけ習うたらもう充分やろう」

片山恭一

愛媛県宇和島市生まれ、福岡県福岡市在住。小説家。九州大学農学部農政経済学科卒業。同大学院修士課程を経て、博士課程中退。大学院在学中の1986年、『気配』で文学界新人賞を受賞しデビュー。しかしその後1995年の『きみの知らないところで世界は動く』まで作品が単行本化されない不遇の時期を過ごす。代表作は、故郷の宇和島市を舞台にした『世界の中心で、愛をさけぶ』。2001年に出版、2004年5月には発行部数が国内単行本最多記録の306万部となった。

川上信也

1971年 愛媛県松山市生まれ。福岡および大分県竹田市白丹を拠点とするフリーのフォトグラファー。福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。その後、プロ活動を開始し、様々な雑誌撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かしたポートレート、料理などの撮影を行う。定期的に写真集を出版し、写真展やトークショーも開催。

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