連載書き下ろし小説
なお、この星の上に
写真:川上信也
プロデュース・ディレクション:東裕治
昭和30年代はじめ、中国山地の山奥で未来のエネルギー資源とされる鉱床が発見される。全国的な注目を浴びて沸き立つ村の人たち、新しい考え方や価値観への戸惑い、変わっていく生活、失われていく伝統的な暮らし。そのなかを生きる健太郎を主人公とする4人の少年たち。彼らを取り巻く大人たち、自然、野生の動物。戦争の傷跡はなお色濃く残っている。死者の国と現世を往還する者たち。古い伝説とアニミズムの面影を残す世界で物語は幕を開ける。もう一つの「失われた時を求めて」。過去のものの無化、存在するものの交替。そのなかで少年たちは何を見出すのか?
第十四章
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14-6
霊魂などを持ち出されると、ちょっとはぐらかされた気分になる。
「わしらのなかにあるものではどうか」健太郎は対象を限定した。「何か変わらんものがあるかの」
豊は再び思案顔になった。
「顔や性格は、あんまり変わらんのと違うか」どこか自信なげな口調だった。「歳とってから会うても、たぶん変わっとらん気がする」
それはどうだろう、と健太郎は思った。顔や性格はともかく、自分というものは変わっていくのではないだろうか。どのようなものになってくのか、どんな大人になっていくのか。行き先がわからないのは心もとないことだ。そんなことを豊は考えないのだろうか、と思って横を歩いている級友の顔を見ると、
「人間の欲深さもあんまり変わらん気がする」同い年の友だちは意外に老成したようなことを言った。「誰かを妬む気持ちとか。それで結局、昭は村を出ていくことになった」最後は悔やむような口ぶりだった。
その口ぶりに染まって、晩秋へ向かう村の景色がひときわわびしく眺められた。こんな景色を見ている自分たちを、健太郎は寂しく孤独な者たちのように感じた。
片山恭一
愛媛県宇和島市生まれ、福岡県福岡市在住。小説家。九州大学農学部農政経済学科卒業。同大学院修士課程を経て、博士課程中退。大学院在学中の1986年、『気配』で文学界新人賞を受賞しデビュー。しかしその後1995年の『きみの知らないところで世界は動く』まで作品が単行本化されない不遇の時期を過ごす。代表作は、故郷の宇和島市を舞台にした『世界の中心で、愛をさけぶ』。2001年に出版、2004年5月には発行部数が国内単行本最多記録の306万部となった。
川上信也
1971年 愛媛県松山市生まれ。福岡および大分県竹田市白丹を拠点とするフリーのフォトグラファー。福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。その後、プロ活動を開始し、様々な雑誌撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かしたポートレート、料理などの撮影を行う。定期的に写真集を出版し、写真展やトークショーも開催。
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